束の間の三十秒

テレビのリモコンが効かない。換えの電池があったはずだ。自宅の乾電池をすべてエネループに新調する計画が、どこかで頓挫している。単三が二本。ビニールを破って、残りが二本。週末に買いに行こう。あれ、おかしい。確かに今、切れた電池を取り出したとき、プラスとマイナスが逆に入っていた。まさか。逆に入っていて今日まで問題なく動作していたなんてあり得ない。逆さまで使ってみたことはないが、使えないに決まっている。小学校で習ったはずだ。単純で退屈な回路の先に、点こうとするのか、消えようとするのか、末期を悟って恐怖に震える、かよわい魂のような豆電球。むせ返る実験植物のにおい、狂った教師のポマード、思い出すだけで吐き気が込み上げる。ともかく、この目で確かめたのだ。あべこべにはめられた乾電池、それから昨日までのリモコン。確かに動いていた。ボタンを押せば、ニュースが映った。音量が上がって、下がった。確かなことは、その事実だ。プラスがどうとかマイナスがどうとかいうことではない。過去であれ、未来であれ、仮定はしょせん虚構に過ぎない。事実のみがある。仮定はないのだ。しかし少し不安になる。この乾電池は、果たして正しく入れるべきなのか?

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