20065.10
加えて館内の空気が濁っていたせいもあって、行方不明者が相次いだ。
ただでさえ極度の混乱のさなかだ。出口を見つけられずにさまよったあげく、ほとんどの者が消えてしまったのだろう。あるいはしかしそうして出口を見つけたのかもしれない。
そのとき私の目の前に現れたのは一匹の蛇だった。
蛇は私の目をまっすぐに見て、言った。
「今や残ったのはあんただけみたいだね。じゃああんただけに秘密を教えよう。秘密というかなんというか、まあ何でもいいや。一回しか言わないよ。うるさいからね、聞くならよく聞いといて。結局のところ僕らは、いい? 抜け殻で勝負してるんだ。僕らみたいなのはね。あんたは違うかもしれない。でもどうかな。僕には、あんたも同じに見えるけどね」
蛇がそこまでしゃべるのを聞くと、急にフラッとめまいがした。視界が霞んで、ふたたび戻ったとき、蛇はもういなかった。それから濁った空気を透かして、通路の先にドアが見えた。とにかくここから抜け出したかった。そして、迷わずそのドアに飛び込んだ。
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