凱旋また凱旋

午後のまどろみを背に、図書室で目録を漁っている。それは猫の顔をした男である。彼は次々に抽斗を開けていき、パラパラとカードをめくっては乱暴に閉め、開けて、パラパラ、閉めて、開けて、パラパラ、閉めて、パラパラ、じゃなかった、開けて、パラパラ、そして、ひととおりチェックして顔をしかめて、最後の抽斗を開けっ放しにしたまま今度は受付に向かった。ひとしきり大きな声を出したあと、鼻息を荒げてツカツカと、大股開きで威勢良く、パソコンのある一角に腰を据えた。なにやらしばらく画面とにらめっこしていたが、キーボードをがしゃんと叩いて席を立って、そのまま図書室を出て行った。パソコンの画面は点いたままだ。どうやらどこかの出版社の新刊情報を検索していたようだ。係員が眠そうにあくびをして、開け放されたままの抽斗を閉めに立った。窓からは春が今にもこぼれ落ちそうだ。係員は窓を開け、うれしそうにまとわりついてくる陽光に微笑み返した。ちょうどそのとき中庭の端を、先程の猫男が歩いていくのが見えた。「うしろにあったものはなくなってしまう、まえにあるものはみえない、ここにあるものにもふれられない、じかんよとまれ、じかんよとまれ、だからといってたちどまるわけでもない」と、そのとき猫がつぶやいたのだが、もちろん係員には聞こえるはずもなく、彼はふたたび窓を閉めて持ち場に戻り、男が使っていたパソコンでは、若いヒラヒラスカートの女が『写真技術と色素の研究』という本を検索しているところだった。

trackback URL:

お気軽にコメントください。

comment: