20064.25
古い友人の誘いで、自分の頭蓋骨を開けてみる機会があったのでやってみた。簡素な肘掛け椅子に座らせられ、深呼吸を二度ほどさせられ、しばらく息を止めておいて下さいと言われ、どれだけ止めていればいいんだろうと思いながら、十秒くらいの内に、パキパキと何やら頭の中で音がして、僕の脳髄は簡単にあらわになった。医者は切り取った僕の頭蓋骨を皿のように持って、そこに小さな僕の脳味噌を載せて、プルプルと震わせて見せた。実際のところ、震わせたのか、医者の手が震えていたのかは定かでないが、皿も満足に持てないような医者に頭の中をいじられたのかと思うと、やはり医者がちょっとしたサービスで震わせて見せてくれたのだと考えることにした。確かにプルプルと小刻みに揺れている脳味噌を見ると、僕の体がちょっぴり若返ったような気にもなって、少しウキウキした。みなさん記念に写真を撮って行かれますよ、と医者が嬉しそうに促した。もっともな話だと思い、携帯電話のカメラを向けると、や、せっかくですからね、と言って、何やらゴツゴツと岩盤を組み合わせたような物体を抱えてきて、学生時代に自作したんですがね、これが意外と繊細な絵を写すんですよ、とか言いながら僕の正面に中腰に構えた。僕は自分の皿を顔の横に持ち上げて、はい少し笑ってみて下さい、上手な笑顔は、白い歯を下唇で隠すんですよ、などと言っている医者の指先が震えているのを見ながら、ブラインドから差し込む午後の光に目をしかめて、実を言うと、皿を持つ指が震えてくるのを堪えるのに必死だった。
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