みちのはずれの

ずいぶん昔の話なんだけど、たぶん小学校くらいのときかな、家の近くに山があって、山っていうより小山って感じの、ちょっとでかい丘みたいなそんな山があって、友達とよく登って遊んでたんです。で、その日はどういう日で、何をしてたのかは忘れたけど、そのときもまたその山に登ってたんです。登りながら遊ぶ、って感じ。遊びながら登るでもいいけど。遊びながら登る、の方がいいな。別にその山に登りたくて登ってるわけじゃなかったし。そろそろ日も暮れかかる頃で、ウサギオイシの鐘の音がもうすぐ鳴るって頃でした。山の頂上にはちっこい展望台があって、木組みでオモチャみたいな展望台で、上に登っても何も見えませんでした。でもその山を登ると、いつもその展望台に意味もなく登ってみて、それでまた何か遊びながら下る、というパターンだったと思います。あんまり詳しくは覚えてないんだけど、なにしろもう十五年くらい前の話だからね。で、そのときも展望台の所まで登って、来た道と別のルートで下りはじめたんだったと思います。その辺はよく覚えてなくて、でもそのあとの事を、今でもはっきりと、部分部分のビジュアルだけ妙にはっきりと、覚えているんです。僕らは山を下っていて、途中、おじさんがいたんです。その山で人に会うことは滅多になくて、でもまあもちろん、そんなに人里離れた深山てわけじゃないから、人がいたらいたでぜんぜんおかしくはないんだけど、なんかそのおじさんは妙な感じで、ああいうときって、なんか説明はできないんだけど、おかしいってのはわかるのよね、で、そのおじさんの横を、みんな変に押し黙っちゃって、通り過ぎたんです。通り過ぎるときに、おじさんが何か変な声を出したんです。たぶん何か日本語で喋ったんだと思うけど、よく聞き取れなくて、でもみんなビビって立ち止まっちゃって、そのおじさんの方を凝視してしまったわけです。みんなで。直立した感じで。そしたらそのおじさん、僕らにまるで気付いてないようなマイペースな動き方で、足下に生えてた硬そうなキノコをピックアップして、蜜みたいのをタラタラかけて、ムシャムシャ食べて、「オチを考えてないのに書きはじめるからこういうことになるんだ」と言いました。ご静聴ありがとうございました。

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