レット・イット・カム

酒を飲んで帰ったら、郵便受けにカツオ節が入っていた。一本丸ごと、裸のままで、香ばしいにおいを充満させていた。削り節ではなく、カツオ節だ。なんならカツブシと言ってもいい。あの、いかめしくて、ゴツゴツして、何かの武器のようで、それもかなりの殺傷力を秘めた兵器のようで、それでいてボクトツとして、ボクネンジンで、トウヘンボクで、飾りっ気がなく、神妙で、どこか張りつめていて、ひきつった様子で、今にも爆発しそうな、不発弾のようで、地中深くからついさっき掘り出されてきた、ミイラのようで、呪われているようで、呪詛のためのヒトガタのようで、何か重要なものが抜け落ちた抜け殻のようで、どこかからフッと魂が戻ってきて、今にも腕の中でガタガタと震えだし、背筋も凍る怨嗟の声を発しそうで、赤子のように慟哭しそうで、恐る恐る私は、それを部屋まで持ち帰り、おろし金にセットし、削ってやった。削って、削って、最後まで、削って、精根尽き果てるまで、削って、朝になるまで、削って、削って、跡形も無くなるまで、削ってやった。そして、少しつまんで豆腐にのせて、醤油かけて食べた。

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