20063.15
太陽が南中しました。砂丘は影もなく続いています。ぴかぴかと黄色いフンコロガシの類が、折れそうな脚をせわしなく動かして、砂の上に柔らかなアークを残していきます。その脚の隙間から、遙か地平に沿って、遠くの街からやってきた駱駝の隊商が、トボトボと行くのが見えます。虫は影の上でぴたっと止まって、しばらく動きません。影を落としているのは一本のサボテンです。
サボテンは中くらいの高さで、中くらいの太さの軸を持って、右と左に交互に枝分かれした体をして、白い砂の上ににょっきと立っています。表面はかぼちゃのようにでこぼこして、こわばった襞が上から下まで何本も波打っています。その間から、硬そうな針がずらっと並んで、全体に熱い太陽を浴びて形も色もくっきりとして、たいそういかめしく見えます。虫が後ろ脚でシャクシャクと根元を掘っています。サボテンは一本だけで立っています。
太陽が少しだけ動きました。砂丘に真っ黒い切り口が入ったかと思うと、じわじわと広がっていって、砂漠全体に不気味な斑模様を浮かび上がらせます。隊商はどこかに方向を変えて、もういなくなってしまいました。虫は砂をかぶって隠れています。日射しはいよいよ燃えるようで、荒れたサボテンの皮膚にじりじりと焼き付けます。見渡す限り景色はもうもうと揺らめいて、サボテンの落とす影も細かく震えるようです。砂丘のいちばん熱いところでは、ぷちぷちと音をたてて、砂が硝子に変わっていきます。ただ静かに、砂漠は午後を迎えようとしています。
そのころ、とある都会の一角で、男がひとり風邪をこじらせて言いました。
「水分を!」
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