20107.24
いつ聞いても感動するというか、たぶん何よりも心を揺さぶられる声、それが元ちとせの声なんだけど、久々にまた昔の曲を聴いてみたら、やっぱり言い知れぬ感動が、僕の心肺を締め上げた。
今日ひとつ気付いたのは、この人の声は動物の鳴き声に似てるんじゃないかということ。いや、それよりももっと限られた、そう、白銀に沈む夜に鳴く、狼の遠吠えに似ているんじゃないかということ。僕の心の赤い襞をこんなに強くなぞりまくる情動は、もしかすると太古の昔人間がまだ狼だった頃、群れの一匹が仲間に危険を知らせるため、月に向かって夜を震わしたその一鳴きを思い出すからじゃないだろうか。
森は黒く、夜は青白い。雪に隠れた岩屋で、仲間たちはもう眠っている。私だけが起きている。眠れないのは空腹のせいか。それなら良いが、妙な胸騒ぎがする。月はちょうど南中を過ぎるころ。翳りなく、ぬめるように丸い。きっと今夜が満月である。私は無理に眠ろうとする。と、そこに、一閃。闇を切る見張りの高鳴き。大気は一瞬に張り詰める。全身の毛が逆立ち、筋肉は一斉に緊張する。仲間たちは既に目覚め、金色の眼を闇に浮かべている。再び鳴き声。凍った空気が洞穴に流れ込む。二度目の声は正確な合図である。仲間たちは動き出す。雪を踏む音が重なる。どうしてだろう、胸が騒ぐ。腹の底から何かが噴き上がり、体中を埋め尽くし、圧迫する。嫌な感じがする。恐怖に潰されそうだ。足は凍ったように動かない。仲間はもう皆消えている。月が出ている。木々は影を作っている。雪原は彼方まで続いている。雪原は続いている。雪原は続いている。足が動かない。月が出ている。雪原は続いている。雪原が光っている。光りながら続いている。彼方まで続いている。雪原は続いている。雪原は。雪原は、
そう言えば太古の昔、人間は猿だったっけ?
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