20106.30
いつものように、ファミマから上がった夜の交差点で車が切れるのを待っていた。信号はない。たぶん深夜十二時くらい。街灯の光は暗く湿って地面すれすれを照らしている。やけに暗い。街灯もほんとは点いていないのかもしれない。ただ車のライトを反射して、光っている素振りをしているだけ。なかなか途切れない車の列にもじもじしていると、爪先に何かが当たる感触があった。見ると、暗い足下に妙に白々と、転がっているのは一本の骨だった。何だろう、誰かファミチキでも食べたかな。遠くの信号が赤に変わるのを見計らって横断する。それにしても、ファミチキの骨にしてはやけに大きかったよな。それに白かった。病院沿いの坂道を上がっていると、行く手の街灯の下に何かが光っている。近づいて見るとまた骨だ。さっきよりも小さい。不思議に思って先を見ると、また落ちている。その先にも、先にも、点々と、夜道に骨が続いている。何だろう、妙な光景だ、食べながら歩いたにしても、いったいいくつ食べたんだ。いつも売り切れてるのはこいつのせいかもしれない。ちょうど自宅の方に続いていたから、骨の隣をずっと歩いて行く。骨はつかず離れずの間隔で続いている。人気の無い大通りに出ると、どうやら骨は通りを横断するように続いているらしい。通りの向こうは動物園で、夜でもこうこうとライトが照っている。パンダのはりぼてが闇に浮かび上がっている。ふとパンダが鶏を貪りながら歩いている光景が浮かぶ。まさか。それにしてもこんなたくさんのファミチキを一人で食べながら歩いてるんだろうか。一人とも限らないな。ヘンゼルとグレーテルが手をつないで夜の動物園に消えていく姿を想像してみる。ファミチキをぱんぱんに詰めたビニール袋を提げて。気楽なもんだ。と、その時、動物園のさらに向こうの交番の辺りに動く人影が見えた。並木の陰にちらちらと見え隠れする。ちょうど骨の続く先を歩いているようだ。目をこらしてみる。ついに並木の切れ間にはっきりと現れる人影。暗闇の先へと歩いて行く。その先には街灯も無い。なあんだ。ファミチキじゃない、骨を捨てていたんじゃない。あいつが、骨を落としてたんだ。ぽろぽろと、骨を落として歩いてたのは、何のことはない、一体の骸骨だった。スカスカの骨組みを闇の中にしらしらと輝かせながら、三分の二くらいに減った骸骨が、闇の中へと消えて行った。なまぬるい風が吹く。空気は湿っている。今日は降らなかったけれど、明日は雨になりそうだ。ニュースでは梅雨入りだと言ってたし。それにしてもお腹が減った。ファミチキ買っとけば良かったな。そういやファミチキって、骨無しだったっけ?
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