いしきり

 下流も海にほど近い、大きな鉄橋の下で釣り糸を垂れている人に尋ねてみた。
「その辺りにコロコロと無数に転がっている石ころ、どれも同じように角がなくなってまるまっていますよね。どうですか、釣れますか。ほら、ガラスの破片なんか、小さくてもつやつやして宝石みたいじゃないですか。こんな下の方で釣れる魚もおいしいですか。ところであなた知っていますか。この石のほとんどは、水の流れるに任せて上流から川底をずーっと転がってここまで来て、その間にこんな風に角が取れてまるくなるんですよ。でも実はですよ。知っていますか。上流の方にだって、こんなに数は多くありませんが、もともと角のまるい石がどれほどかあるんです。詳しい話はわかりませんが、なんだってこんな風にまるく生まれてきたかは知りませんよ。でもそういう石があって、それも同じようにコロコロ川底をやってきて、ほら、あなたの足下にだって、転がっているかもしれません。あなたの踏んでいる、それがそうかもしれませんよ。どの石か、あなたには見分けがつきますか」
 はじめからまるい石、そんなものがあるのか、もちろん見たことも聞いたこともない。川の上流を辿ったことなど、物心ついてから一度もない。
 ただ、私は今どの辺りにいて、どのくらいまるくなっているのか、気がかりなのはそれだけだ。

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