海に降る雪

 市内全域に及ぶ大停電となった。発電所からの主要な連絡拠点が落雷でダウンした。大きな落雷だった。雨さえ降っていなかったのにも関わらず、あれほど大きな落雷は観測史上稀に見るものだと、ラジオが伝えた。街は暗闇に覆われるかと思われた。人々は混乱の最中で、みな人任せに救いを待っていた。都市の人々は非力で、脆かった。

 しかしすぐに、人々は気がついた。街は闇に奪われてなどいなかった。

 ぼんやりと、街は淡く発光していたのだ。建物が、道が、壁が、あらゆる街の構成物が、それ自身の光で、都市の輪郭をうっすらと浮かび上がらせていた。それはまるで街全体に夜光物質をまぶしたようだった。青く冷たい光だったが、不思議と人々の心を落ち着けた。そしてその光は、何ものにも代え難く、美しかった。

 やがて夜明けを見る前に電力は復旧した。ほとんどの人々は眠っていたが、混乱のあとも眠らずにいたひとにぎりの夜の人々は、まぶしい電気に掻き消えゆく燐光を撫でながら、もうしばらくのあいだ、朝がこないことを祈った。

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