20067.23
タイトルのあと、ブラックの間に雨音がフェードイン。
時間は夜。夜と朝の狭間で、外はまだ真っ暗闇。小さなワンルームの中に、男が一人生活している。今は、どうだろう、寝ているのか、寝転がっているのか、わからないが、ベッドに横たわり、目を閉じている。電気は点いている。どこにでもあるリング型の蛍光灯に、少し大きな円い傘がかぶっている。それでも部屋はやや暗いようだ。外は雨が降っている。しとしととそれほど強くはない雨だが、雨音は部屋の中まで確かに聞こえてくる。それ以外は至って静かだ。耳を澄ませば、時計の音くらいは聞こえるかもしれない。
ふと男が立ち上がる。ここからカメラは男の視点で動く。洗面所のドアを開ける。鏡に映った顔はひどく疲れているように見える。男はしばらく鏡を見つめ、それから服を脱ぎはじめる。すべて脱ぎ終わると、浴室へ入っていく。もちろん隠れるべきところは、巧みなカメラワークによって隠される。
浴室の中の男。シャワーの湯を出す。頭から湯をかぶりながら、じっくりと両手で顔をこする。水音だけが激しく鳴っている。ここから、男のナレーションが入る。画面は男のナレーションに合わせて展開する。
知っていたというわけではないが、うすうす感じていたのだと思う。風呂場の換気扇が、簡単に開くのを知ってるかな。押すか引くか、引きはしないか、ちょっと押すと、簡単に持ち上がる。どの換気扇でもそうなるのかは知らない。ただ私の家がそうなのだから、他もそうなると考えるのが自然だろう。もし良かったら、試してみるといい。換気扇があると思っていたところには、何もない、だだっぴろい暗闇だけがある。換気扇なんてどこにもない。換気扇の回る音が、その闇のどこかから響いてくる。興味があるのなら、顔を突っ込んでみるといいだろう。そこにはただ真っ暗闇がある。暗闇があると言うよりは、何もない、光もない空間が、どこまでも続いてると言った方がいいかもしれない。いや、やっぱりよくない。続いてるという言い方も当たらない。何もないから、ずっと彼方まで続いてるように見えるだけだ。そこには何もない。ただ、換気扇の唸りが、妙に反響して聞こえてくるだけだ。
男が頭を洗うところがクローズアップされる。乱暴にゴシゴシとこすって、泡が飛散する。ゴシゴシという音がやけに大きく聞こえ出し、換気扇の音と重なって響く。きちんと蓋を閉められた換気扇がしばらく映る。音はいよいようるさくなる。
画面が変わって、カメラは部屋の中から、窓の外に向かっている。カーテンは開け放たれているが、窓は閉まっている。前のカットから鳴っている換気扇とシャンプーの音は、少しも衰えず鳴り続けている。しばらく窓が映ったままの状態が続く。雨は風にあおられているようで、窓に斜に降り注ぎ、雨滴は絶え間なく流れ落ちる。
画面が変わり、音が止む。屋外の風景。カメラは夜の街を、ビルの五階くらいから俯瞰する。街灯がオレンジに光っている。雨を透かして見た街は、現像したばかりの写真のように、なめらかに輝いて見える。音楽。そしてエンドロール。
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