アニマル・トーキング

頭痛薬を飲んだのが最後だった。悪魔ってのがいるもんだ。いきなりあらわれて、なにもわからないまま、魂を引っぱっていく。まあ、運が悪かったとしか言えない。仕方ない。飲み物を買いに出る。肌着の上からポロシャツを着る。短パンに財布を突っ込む。ケータイは要らないだろう。雨は降ってたっけ。まあいいや。降ってない気がする。サンダルと、鍵と、傘は、いいや。おっと。ゴミを忘れずに。なんだろうなあ。刺すような湿気だ。のぼせそう。こんな夜はたまらない。胸ぐらをつかまれる。そして、刺される。湿気に。トゲトゲしてる。夜も人も。車も。水たまりにはね返る。猫みたいな音をさせて、タクシーばかり走っている。だいたいあれだ。くだらないと思ったら、くだらなくないと感じるもんだ。それから今は、それよりもひどい。排水溝から湯気が出てる。頭がぼおっとする。夢ごこち。やっぱり野菜が傷んでたかな。それとも鶏肉の黄色い部分がまずかったかな。妙な湯気だ。人の形に見える。ぼんやりする。風邪かもしれない。あれだ。排水溝のあんまり傍を、歩きすぎたのがいけなかった。道なんて暗闇じゃよく見えない。それにあんなに平和で静かな街に、タクシー以外はだいたい眠ったようなところに、あんな物騒なものがあるはずがなかった。でもまずかった。はずがなかったってことは、もうあるみたいなもんだ。湯気に突っ込んだ。湯気みたいなものに。顔から。そのあとはたぶん、ぱっと赤くなって、どうだろう、夜が平和すぎたのがまずかった。そんなときはだいたい、ろくなことが起こらない。

trackback URL:

お気軽にコメントください。

comment: