クレアボヤンス その3

まさか! 忘れたとでも思ったのか。実況中継をしてやろうか。たった今、スライムは真っ赤に潤んでいる。電車の中で泥酔した中年の、目を覚ましたときのあの瞳の色だ。吐き気がするくらい濁っている。赤潮の原因は大量のイトミミズでした。その死骸は河口付近の泥土に沈積し、除去作業は難航しています。現場から中継でお送りしました。わかってるだろう。そこが現場だよ。赤くただれた粘着質の表面が、永遠に乾かない傷口みたいにおれの胸を締め上げる。どれだけ苦労しても、精根尽くし努めても、癒えない傷だ。それが今、なんてこともない、足下に震えている。焼いてしまえばいい。まるごと。鉄は熱い内に打つべきだった。熱さにやられて目を覆った瞬間、火花は散って消えた。焼け跡も残さなかった。手紙を出しにいく。因果なんて、どこにもない。覆った手を、いい加減に下ろしたらどうだ。すばらしい夜が、乾かないままのインクをにじます。

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