クレアボヤンス その1

リモコンが見つからない。蒸し暑くてたまらない。窓を開けようとすると、既に開いている。なんてこった。雨が降ったようだ。ベランダの手すりが濡れて光っている。雨粒め。世界中の雨粒を一身に集めて、油をかぶってやりたい。誰かライターを貸してくれ。蒸発した雨粒が、恵みの雨を降らせないように、成層圏に地縛して、水蒸気を残らず呪ってやる。ああ、こんなところに見つかった。一生懸命探した机の上と、一生懸命探した棚の上、その間の床に転がっていた。おれの右目と左目の、ちょうど見えないところにある。何もかもがだ。リモコンまでそうなんだから残らずそうに違いない。エアコンは動かない。いやな予感がする。予感がしなかったからまずかった。予感がもう少し早くしてくれればよかった。予感というものは得てして外れるものだ。でもこれはもう予感ではない。スイッチは押されたのだ。回り始めた歯車は、全体をひとつの運動として伝える。しかしあくまで個々は運動する。さらにしかし、いくらそれぞれが別のように動いていても、全体はたったひとつの動きを変えない。エアコンは動かない。ブルブルと鳴って、排気口の隙間から、何かがドロッと滑り落ちた。当たり前のことだ。エアコンは動かなかったのだ。言うまでもない。相変わらずだ。馴染みの客だ。わかりすぎるほどわかりきっている。それは運命のようにスライムだ。

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