スリー・シープス

ミニチュアのおもちゃのように見える。誰もいない、港は早朝。はるかの街影から、淡い輪郭だけ結晶させる、太陽はまだ土の中。澄んでなまぐさい朝もやの底に、ちらちらと動くのは誰だろう。ぼんやりと滲んだ黒ずくめの、細い枝切れの人影。背の高さ二倍くらいの、小さな倉庫に見え隠れして、埠頭に不安をくゆらしている。つぎつぎに転がり出たのはドラム缶。苔の生えた大きなドラム缶。のっぺりと平らかな波止場の地面を、やたらめったらうるさく鳴って、ゴロゴロ、暗い海へと転がっていく。重たい水音は朝もやに吸い取られて、わりと静かに、つぎつぎ沈んでゆく。人影はせかせかして今にも分解しそう。そうこうするうちに、とおくから太陽の芽吹き。うそっぽいラッパの一音。ほのかな輪郭線はきらきらと立体的に、しだいに朝を縁取ってゆく。ぱらぱらと崩れて落ちた光の薄片が、みなもに揺れて溶けて消える。冷たい暗闇の中に、どんなかなしみが余っても、だいじょうぶ、じきに夜は明けるだろう。

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