20063.14
その兎はウトウトして、居眠りしながら考えた。どうしたらあんなにのろのろできるのかしら。今日は特別おまけしたつもりだったのに、あの人、いつのまにかあんなに遠くになっちゃった。あそこからここまでどのくらいかかるでしょうね。ああ、それにしても今日の風はなんて気持ちいいんでしょう。またここらにも春が来るわね。そしたらまたすぐに夏が来る。今年は因幡の海にでも行きたいわあ。あの人は連れてってくれるかしら。あたし、あの人といつまでいっしょにいるのかな。夏まで。秋まで。来年の今頃はどうなってることやら。ああ、ほんとの幸せってこんなものなのかしら。いつまでもいっしょなのかしら。どうしよう、なんだかどきどきしてきちゃった。わたし、このままでいいのかな。どうしよう、あの人は、まだずっと来ないわね。どうしよう、わたしがこのままどこかに行ってしまったら、わたしが、あの人は捜すかしら、きっと捜すわ、ずっと、のろのろしながら、どうしよう、このままわたしが、でも。わたしが、こうしてられるのも、あの人のおかげだし、そうね、わたしが、そうよね、わたしがこうやってずっとわたしみたいにできるのも、あの人がああやっていつもゆっくりしてくれるからよね。わたしのためだわ。わたしがいちばんいいわたしでいられるのが、わたしにとっていちばんのはずよね。うふふ。わたしって、実はすごく。ふふ。ああ、あったかいなあ。もうちょっと、まだゆっくり、ゆっくりしてたいわ、のろのろしてていいのよ……。大きな雲がぽっかりと流れていく。兎はそのまま、うらうらと眠り込んでしまった。
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