透視

歯磨きをしながら、ぼんやり天井を眺めていたら、エアコンの上に何か載っているのを見つけた。近づいて見ようとベッドにのぼった瞬間、それはドロリと足もとに落ちた。全体が水色で、うすい虹色が透けて見えて、蛍光灯をきらきらと反射して、すごくきれいに見えたけれど、それはまぎれもなくスライムだった。ドラクエのスライムに似てるわけでもないし、ガチャガチャなんかの100円スライムともまるで違ったけれど、たしかにスライムに違いなかった。実写版というのは、概してそういうものだ。特に不気味にうごめくでもなく、あやしく発光するでもなく、やばい刺激臭を放つでもない。何ひとつ異常なところはない。よく見ればどこにだっているようなスライムだ。何の変哲もへんてこもない。純粋にスライムだし、どちらかと言えば健康に良さそうなスライムだった。洗面所に行って、うがいはせずに、歯ブラシは置いた。その間に溶けてなくなっていやしないか、幻と消えていやしないか、と思ったけれど、戻ってきてみたらまだいた。いたというかあった。あったからと言って、うれしくもなかった。どんなに珍しいものでも、平凡なものはしょせん平凡なのだ。寒かったので、暖房をつけて、触ってみた。予想以上に弾力があった。少し興奮した。でもすぐに飽きた。花火みたいなもんだ。打ち上げ花火。楽しいのは最初の二、三発だけ。おっぱいを触って楽しいのは、相手が反応するからだ。スライムとカーペットの間に手のひらを突っ込んで、持ち上げてみた。見た目の透明感とは裏腹に、全体がまとまって持ち上がった。それは少し楽しかった。持ち上げて、眺めた。最初見たときよりも、色あせてきてるみたいだった。濁ってきてるようでもあった。ドロリ、と、五本の指から垂れて落ちた。五本の指のそれぞれから、その隙間から、同じくらいずつ分かれて落ちた。なんでもだいたいはそんなもんだ。捕まえたと思ったら、するりと逃げていく。暖房の上からスライムは床に落ちた。今ではちぎれた四つが、別々になって震えている。

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