20062.21
ちょっとした用事があって、宵の電車に揺られて30分くらいたった頃だったと思うけど、前の晩へんな時間に寝て、半分徹夜みたいな感じだったから、なんかしばらくユラユラしてたらいつのまにか眠ってしまった。
んで、どれくらい眠ったかわからないんだけど、たぶん10分も眠ってなかったと思う。パッと目を開けると、パッと開けたかどうかゆっくり開けたかどうか覚えてはないんだけどね、とにかくうとうとして目が覚めて、自分の乗ってる車両の中を見たわけ。車両の中というかまあただ目を開けた。で、周りを見た。さっきまでけっこう立ってる人もチラホラいたくらいの車内で、隣にも、右にも左にも人が座ってたんだけど、急に誰もいなくなってた。なんでだろう、そんなことはないよなあ、でも実際誰もいないからこんな空いてるときもあるんだろうと、それがだいたい1秒半くらいで考えた。で、よく見たら、みんな誰もいなくなってるだけじゃなくて、電車の窓越しに見える風景がなんか違うことに気付いた。初めて乗る路線とかだったらそんなこともあるかもしれない、だけどもうずっと毎日繰り返し繰り返し眺めてる景色が、その景色じゃなかった。もう明らかに違った。初めて乗る路線なら、とか言ったけど、初めて乗ってもこれはあり得ない。窓の外には、なんていうか、言葉で言ってしまうと、天国とか、楽園、というのは少し違うな、桃源郷と言ったらまだ近いかもしれない、ファンタジーだった、あれはファンタジーだったとしか言えない。桂林省が霧がかった、カラフルな靄に覆われて、シャボン玉みたいな雲がかなりゆっくり流れてるの。空には龍か鳳凰かが飛んでそうな、飛んでるのを見たわけじゃないんだけど、甘い匂いが漂ってきそうだった。一瞬クラッときたかもしれない。覚えてないけど、だいたいそんな感じで僕は天国にいた。
で、それがだいたい5秒くらい。すごく長く感じたけど、だいたい5秒くらいだったんじゃないかと思う。ここまではよくあるパターンかもしれない。トンネルを抜けたら異世界。なんて苔が生えたような筋書きかもしれない。まあ当事者にしてみれば筋書きなんてどうでもいいくらい驚異だったし、トンネルなんてなかったけど。腰が抜けるくらい。でも、それだけじゃなかった。それだけやばいものを見て、クラクラしてる僕の乗ってる電車は、僕がまばたきをするたびに、まったくガラリと別の景色に、というか別の世界に、いた。何回まばたきしたかなんて覚えてないけど、全部違った。全部新しかった。見たこともない世界が次々に現れた。僕は別にそれを楽しんでたってわけじゃなくて、ただもう呆気にとられてパチパチといろんな世界を繰り広げた。僕が動かしてるという気はなかった。僕のまばたきに合わせて、僕がいろんなところに飛び移ってるみたいだった。すごい興奮があった。でも、まばたきのたびにめくるめく信じられない映像が展開されて、なんだかしばらくすると気分が悪くなってきた。言ってもその間は30秒くらいだったと思う。そのほんの30秒の間に、僕のいた世界は、ほんともしかしたら100くらい変わったかもしれない。いや、100だと1秒間に3回もまばたきしたことになるから、それはないな、50くらいはあったと思う。とにかくもう最後の方は気が動転して、わけもわからずそうしたいわけじゃないのにパチパチパチパチとずっと何回も何回もまばたきして、頭に血がのぼって、震えがきて、吐気がしてきて、酔ったみたいになって、我慢できなくなって、もう無理、限界、ってなって、次の駅で降りた。用事にはぎりぎりで間に合ったけど、まだ二人しか来てなかった。
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